『Fantasyが始まる/モーニング娘。』
ハロプロ楽曲についてブツブツ言うブログ、はじめました
『fantasyが始まる/モーニング娘。』
収録アルバム*Fantasy! 拾壱
近年、モーニング娘。およびハロー!に 女性ファンが急増していることはここで語るに及ばないのですが、この曲は娘。に救いを求める彼女らの圧倒的支持を集める曲のひとつと言って間違いないと思います。
その証拠に、昨年発売された女ヲタによる女ヲタのためのハロプロコンピアルバム、『ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.6 女子ミュージシャン編 [(大森靖子・津野米咲(赤い公園) ・ユリナ(住所不定無職)]』にもばっちり収録されています。
ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.6 女子ミュージシャン編 [(大森靖子・津野米咲(赤い公園) ・ユリナ(住所不定無職)]
- アーティスト: モーニング娘。,松浦亜弥,赤い公園,スマイレージ
- 発売日: 2014
- メディア: CD
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私ごとですが、この曲は約5年前、私がモーニング娘。およびハロー!プロジェクトに本格的にハマるきっかけとなった一曲でもあるのです。
せっかくのハロヲタブログ書き初め、そんな曰く付きの曲について、ぜひ書いてみたいと思います。
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さて、モーニング娘。コンサートツアー2011春 新創世記 ファンタジーDX ~9期メンを迎えて~ でこの曲が披露された際の映像を見た私は、「女の子グループのこんな在り方ってアリなのか!」と、衝撃を受けました。
短髪パツキンのオネーサンだった高橋愛を中心に据え、アニメから出てきたような黒髪清純アイドル道重さゆみ、ゴッテゴテギャルの田中れいなが脇を固め、なんか髪の毛半分持ち上がってる(?)編込みイケメン姐さん風の新垣里沙、ゆるふわ文化系女子の権化みたいな光井愛佳……
いやどう考えても君ら同級生なら同じグループに所属してへんやろ!!!何がどうなってどういうバランスでその集団は成立してるんだ!!????いやそもそもこんな強そうな人々はクラスに一人も存在しないし、万一いたとして逆に絶対浮いてるな???
そんなやたら強そうな謎のお姉さま軍団の合間を、どう見てもお子ちゃまの9期がチョロチョロしてる、いったいぜんたい何が起こってるんだ……
不可解な状況に困惑しつつも目が離せず、もう何回リピートしたのかわかりません。
世間で売り出されてる女の子グループって、自然発生的に似たような人種でつるんでるか、違うタイプの女の子が揃ってるとすれば男の人の為に作られたギャルゲー実写版みたいな集団、だいたいそういう風に大別できると思っていました。
女子校生活の中で、目的とプライドを共有してさえいれば、別の世界に住む女の子どうしであっても主体的に一致団結できるのだということを身をもって知っていながら、そんな集団が「外の世界」で通用しているわけがない、という勝手なあきらめを抱いていたのです。
そんな私の理解をぶち壊したのが2011年のモーニング娘。でした。
年齢も趣味も性格も、何もかも違うことが一目でわかる、明らかに特別な女の子たちが、みんな同じ挑発的な目を光らせながら歌って踊る姿は、斜に構えた女子高生だった私の胸を突くものだったのです。
なによりとにかく格好いい!!なんだこれは!!かっこよすぎる!!!!うひょ~~~~~!一生ついてくわ!!!!!!!!
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そんな衝撃を与えたのがこの曲だったことには、やはり理由があると思います。
まず何より曲名に惹きつけられるじゃないですか。
いやだって『Fantasyが始まる』。
マジか、始まるのか。まぁ、道重さんがそう言うなら始まるんでしょうなァ。だってそりゃあ道重さんのドーリープリンセスフェイスなら毎日が夢と魔法の世界でしょう。わかる。かわいい。ファンタジー、はじまる。はじまるよ。
そんな予測を裏切らない、幻想的でまどろむようなイントロは、インパクト大なベースがびしっとキマるのを境に突如セクシーでダンサンブルなメロディに変化します。
あれ…様子がおかしいな?と思った瞬間からもう曲にのめりこんでしまう。
その勢いのままさゆみ、愛ちゃん、えりりんという女子の憧れ3トップが強気にAメロを歌い上げ、高揚感が止められなくなったところで、
「どうしてそんな重い鎖を私に巻きつけるの 束縛止めてよ」
「何をそんなに期待してたの これで十分でしょう」
なかなか込み入った状況を思わせるフレーズが並ぶのです。
束縛の強い彼氏に対してなのか、それともやたらと彼氏ヅラしてくる男性か、はたまたお酌を強要してくる先輩や上司…
どちらのせりふも妙齢の女性にとって、ものすごく汎用性がありそう。ここ一番で言いたい言えないひとこと。
言ったが最後、今まで黙示の内に構築されていた、男女間のあいまいな緩衝地帯のような何かをぶち壊してしまうひとこと。
… いやちょっと待て、ファンタジーどこ行ったんや。
君らだいぶ生々しいこと歌ってるけど、ファンタジー始まるんちゃうかったの。
どこにも始まる気配が見当たらない、むしろ夢も希望もない状況に陥ってるのでは??
さて、この曲はいったい何を歌いたいのか、ファンタジーはいつどこでだれとどうやって始まるのか。そんな疑問を残したまま、容赦なくサビに突入してしまいます。
そして、このサビのラストで「ガラスの靴」やら「かぼちゃの馬車」という”Fantasy”な小道具が唐突に登場し、我々はようやく腑に落ちるのです。
サビに至るまでに繰り返された強気な発言は、「ガラスの靴はこの手の中に」あって、「かぼちゃの馬車を正面に回」すことができる女の子だからこそだったのだと。
ガラスの靴とかぼちゃの馬車という夢の道具を手中に収めた自分は、これから王子様に会いに舞踏会に行くことも、ちょっと都心まで買い物に行くことも、女友達に見せびらかしに行くこともできます。自由で何が悪いというの?ってやつです。
やりたいことを夢見て、実現する力があって、自分の頭で考え、自分の進みたい道を選択して生きてゆくのです。それが王子様や継母、魔法使いが自分に求めている選択かどうかなんて関係ありません。
だから、「体が勝手に動き始めるの SEXYでごめんね」
……なるほど、わかる。「ねえちょっと、アタシのかぼちゃの馬車、オモテに回しといて!」一生にいっぺん言ってみたいでしょ。
なんかかっこいい。なんてかっこいいんだ。
あ~~わたしだってガラスの靴のヒールを鳴らして、カボチャの馬車を乗り回して、そんな気持ちでこの世界を生きて行きたい。
なんでだろう。この曲を歌って踊る娘。達は、どうしてこんなに魅力的に映るのでしょう。
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色々考えたのですが、わたしがこの曲は最高にクールだなと感じるのは、決してファンタジーなんて始まらない、タイトルと背反するような歌だからです。
だからこそ”Fantasy”の始まりを高らかに宣言し、確かに子供のころに夢見たファンタジーを生きるテンションで、それでもやっぱり現実をまっすぐ見据えながら生き抜こうとする歌だなぁ、と思います。*1
作詞作曲のつんく♂は、アルバム発売時のライナーノーツでこの曲について「年齢的に大人になってはいるものの、それらすべてを認めたくない。まだまだもう少し子供でいたいなあ、とかそんな気持ち」と書いています。
私の心は子供のままなのに、おとぎの国を夢見た幼いあの頃と何一つ変わってはいないのに、外見ばかりが成長して「年頃の女の子」として時にちやほやされたり、時に軽んじられたりしている居心地の悪さとやり場のない苛立ち。
そしてふと気づけばあの頃には想像もできなかったような姿の自分がいて、自分は変わってないと思っていたつもりなのに、どこかで何か大切な感覚を忘れてきてしまっているような気がする、叫び出したいようなせつなさ。
「大人」になる過程の女の子は、多かれ少なかれそんなジレンマを抱えている気がします。
あの頃より少し成長して、ただ待っていてもぜんぜんファンタジーなんて始まらない事に気づいてしまって、じゃあ一体私はどうしたらいいのだろうか。
最早ファンタジー的なるものへの憧れや胸のときめきは時に幼いものだと笑われすらするかも知れません。
でも、ガラスの靴やかぼちゃの馬車を夢見た私たちは、今では洋服もヘアアレンジもネイルもビビッドにキメられるようになりました。やってみたいことは何でもできるし、行きたい所にも自由に行くことができます。
周りの目線に呑み込まれず、昔から変わらない憧れやときめきを掴み取り、手に入れた自分の力を疑うことなく、まっすぐ人生を切り開いてゆきたい。
こんなどうしようもない世界、Fantasyを始めなきゃ生きてられない、いや、この現実でこそわたしのFantasyが始まるのだ!
この曲からは、そんな強さが溢れ出しているように思います。
そしてまさにそれを体現している娘。たちがこの曲を歌って踊る姿。
それが女性ファンの共感と憧れを呼び、心を揺さぶるのではないでしょうか。
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そういえば寺山修司のこんな言葉を見つけて、まっさきにこの曲を思い出しました。
『一言でいってしまえば、私は化粧をする女が好きです。そこには、虚構によって現実を乗り切ろうとするエネルギーが感じられます。そうした化粧はゲームでもあります。顔をまっ白に塗りつぶした女には「たかが人生じゃないの」というほどの余裕も感じられます。化粧を、女のナルシズムのせいだと批判してしまうのは、本当の意味での女の一生を支える力が、想像力の中に在るのだということを見抜くことを怠った考え方です。』(「青女論・坂さま恋愛講座」より)
我々のFantasyは、我々の前に横たわるシビアな現実と対峙するためにこそ、始まるのだと思うのです。
*1:ちなみにモーニング娘。'15のタイアップも記憶に新しい『Go!プリンセスプリキュア』は、各々の夢を追う主人公たちが、「プリンセス」に変身し、夢を守るために戦う物語。この曲に何となく通じるものがあって、娘。がこの作品に関わった必然性を感じます。最高。