オタクプレゼン大会のススメ②「原作を写す"2.5次元"の変遷-エーステとテニミュの比較を用いての検討-」
昨年末に開催したオタク・プレゼン大会報告ブログの続編です。
その①はこちら
②「原作を写す"2.5次元"の変遷-エーステとテニミュの比較を用いての検討-」
★主観による発表者紹介★
二次元・宝塚・アイドルと幅広くオタクで腐女子。最近は二次元趣味+観劇好きの悪魔合体により2.5次元沼の人。最近は1週間でSnowManにハマってファンクラブに入会した。(twitter:@mashumaru425)
「日本2.5次元ミュージカル協会によると「2次元の漫画・アニメ・ゲームを原作とする舞台コンテンツの総称」が“2.5次元ミュージカルである、と定義されています。」
「有名なものはこんな感じで、『ミュージカル 刀剣乱舞』がこの中だと一番メディア露出が多いように思います。」
「『舞台ギャグマンガ日和』は有名じゃないやろ!」
「ですが、今回は私が特によく観ている『テニミュ』と『エーステ』について比較することで、各作品がどのように2次元のキャラクターを3次元へ表しているのか、またその相違点を踏まえた考察をお話したいと思います。」
「『ミュージカル『テニスの王子様』』略して”テニミュ”の原作はもちろん、週刊少年ジャンプで連載されていた漫画・『テニスの王子様』です。2003年4月の初上演以降大人気で、現在も3rdシーズンが上演中です。」
「1シーズンで原作の一巻から最終巻までのストーリーを終えるとキャストを一新し、次のシーズンに移ってまた一巻から……という形式をとっています。」
「『MANKAI STAGE A3!』略して”エーステ”は、イケメン役者育成ゲーム『A3!』というソーシャルゲームが原作です。2018年6月に初上演されてから、現在まで『Spring&Summer』『Autumn&Winter』『春組単独公演』『夏組単独公演』の4タイトルが上演されています。」
「まずは開演アナウンスの違いを見てください!」
「テニミュから比嘉中テニス部部長木手永四郎*1と、エーステより有栖川誉の開演アナウンス*2です。」
「どちらもキャストがキャラクターとしてアナウンスを行ないますが、最後の名乗り方が違いますよね。」
「原作キャラ自体が舞台俳優であるエーステでは、『今舞台に立っているのはキャラクター本人』という設定を強調するためにあえてキャストの名前を言わないようにしているのではないでしょうか?」
「つまり、舞台上の人は『キャストが演じるキャラ』ではなく、『キャストでありキャラでもある』と観客に感じさせ、キャラとキャストの境目を意図的にぼやけさせようとしているのではないかと考えられます。」
「なるほど~~」
「次に、公演期間中のSNSへの投稿内容の差異についてです。」
「私はテニミュ3rdシーズンキャスト全員・エーステキャスト全員のSNSをまとめたリストを作っているので、ほぼ全員の投稿に目を通していますが、今回は資料として両作品に出演している立石俊樹くんのTwitter投稿を参照してもらいます。」
「同じアカウント?」
「それはそうやろ」
「テニミュの公演期間中は、絶対にどのキャストもキャラクター衣装で撮影した写真をSNSに投稿しませんし、他キャストのことは役者自身の名前で呼びます。」
「一方で、エーステの公演期間中には全てのキャストがキャラクター衣装着用写真、及びキャラクターを意識した文章を投稿しています。ファンに対して「監督さん」って呼びかけたりもしますね。」
「ここから、テニミュキャストはキャラクター衣装着用写真の個人的投稿を運営側から一律に禁止されており、反対にエーステでは運営側からそのような投稿を推奨されている可能性が考えられます。」
「へ~~~~~」
「横でめっちゃ感心し始めた」
「また、テニミュにおいてキャラクターを意識した文章の投稿は、公式ブログ等のみで行われています。その背後には、キャスト個人ではなく、運営側がキャラクターを管理したいという意図があるのではないかと思われます。」
「つまり、キャラクターの表象の管理や責任の多くを運営が担うことで、キャラへの共通理解を担保し、キャラの枠組みを守る役割を果たしているのです。」
「演者の”代替わり”という他作品にはあまり見られないシステムのあるテニミュでは、そのキャラクターをより盤石なものにしておく必要があるからこそ、こういったことが行われているのではないでしょうか。」
「他方エーステでは、キャラクター表象をキャスト主体で行うことでより一層キャストとキャラクターが一体となり、同一化することを促しているように思います。」
「次はキャスティングについて。」
「エーステキャストの座談会やインタビュー記事などからは、舞台裏の役者間でも原作のような関係性が起こっているのでは?と伺えます。」
「例えば、原作ゲームにおいて夏組のリーダーである皇天馬(すめらぎてんま)を演じる陳内将が、舞台の夏組全員の稽古場でまとめ役を担っていたり、原作でよくケンカするキャラクターのキャスト同士が、実際に舞台裏でもケンカをしたりしているようです。」
「これらの”原作的”な関係性はなぜ生まれたのか。偶発的な部分があることも否定できませんが、私はある程度人為的に引き起こされたのではないかと考えています。」
「エッどういうこと?」
「皇天馬を演じる陳内さんの話から、「天馬がリーダーとして組をまとめようと空回った後に少し落ち着いて周りを見たことで、かえって組がまとまった」という原作のエピソードを稽古場で再現させるために、スタッフ側が一定の指示をしていたことがわかります。」
「「「怖!!!!!」」」
「つまり、 原作に準じた関係性を起こすためにスタッフ(演出)からキャストへの介入があることが示唆されるのです。」
「また、原作P曰く、エーステではキャスト自身のキャリアや人間性も加味してキャスティングが行われています。」
「子役出身だけどまだ高校生という設定の皇天馬役に、中堅ベテランの陳内さんを当てたのも、キャラとキャストの年齢よりも演劇キャリアが一致することを重視したからだと思うんだよね。」
「これらを踏まえると、エーステの裏側で展開された”原作的”関係性は、制作側の意図が少なからず働いた結果と考えられるのではないでしょうか?」
「一方テニミュのキャスティングについて、日本2.5次元ミュージカル協会代表理事の松田誠氏と1stシーズンからテニミュの演出・振付を担当する上島幸夫氏はともに、エーステ同様、「外見だけではなくキャスト自身の内面的な部分を見てキャスティングしている」というような発言をしています。」
「加えてこの発言から、テニミュキャストの「内面」として一番大切にされているものは『必死に成長していく過程』であることが分かります。」
「テニミュは他作品に比べて、テニミュが初舞台となる新人のキャスティングがとても多いのが特徴です。」
「それゆえに技術も未熟で、演技も発展途上ですが、そんな彼らが”物語の中で成長していくキャラクターとともに成長していく過程を見せること”こそが、不可欠な要素と言えます。」
「テニミュを通して舞台経験を積んでいく中で、キャストは役者としての自身の演技や技術などを見つめて理解し、そしてそれらが彼らの中で確立していく頃にテニミュからの卒業を迎え、次の舞台や作品に出演します。」
「確かにそうだな~」
「テニミュでは、発展途上である役者のポテンシャルや性格などを加味して“これからの成長”を重視したキャスティングを行うことで、裏側から舞台へ地続きに原作を表現することを目指し、」
「対してエーステは役者自身のキャリアや人間性という“今まで培ってきたもの”を重視したキャスティングを行うことで、裏側でも原作的関係性を誘発することを狙ったのではないでしょうか。」
「これまでの発表のまとめです。」
「矢内賢二は、代替わりするテニミュと歌舞伎の共通点として、原作の規定する役という枠組みをあくまでも守りつつ、その内側では演じ手の個体変化を都度都度に享受しながら役と芸がリレーされていくのを見守るものだ、と述べています。」
「テニミュは運営がキャラクターの枠を規定することで、その枠内でキャストの個性を発揮できることが担保されています。」
「その結果として、役自体が普遍性を獲得し、演者の”代替わり”が可能になったと言えるのです。」
「これまで2.5次元俳優は2次元のキャラクターの依り代となり、キャラクターを二重写しすることで、3次元にキャラクターを表してきたと考えられています。」
「当然ながら、このように俳優が「依り代」となり「二重写し」をするためには、キャストとキャラクターが個々に存在する必要があります。」
「しかし、エーステは意図的にキャストとキャラクターの境界を曖昧にし、キャストをキャラクターそのものに近づけることで2次元のキャラを3次元で成立させる、という今までの「依り代」や「二重写し」とは異なった表象を行おうとしているのではないでしょうか。」
「キャラとキャストを同一化させることのメリットは、”代わりがいない””唯一無二”のキャラクターをよりリアルに感じられることですよね。」
「でもだからこそ、このやり方はキャスト変更や不祥事のダメージが大きいんです!」
「特にエーステは役者を題材にしているという特異性があるので、観客もキャストも演じ手とキャラを同一化させやすいんですよね。」
「今すごい流行っててチケットも全然取れないんだけど、テニミュみたいに半永久的には続けられないのかなと思います。」
「ほ~~~~なるほどな!」
「数多生まれては消える2.5次元作品の現状ですが、今後新たにロングラン作品が生まれるのか、それとも刀ミュのような現行人気作品が新しい道を見つけてゆくのか、これからもファンとして変遷を見続けていきたいです。」
「すごい、ちゃんとした研究発表だった!!」
☆勝手に講評☆
筆者は2.5の世界について何も知らない(つばきファクトリーさんの『遙か6』しか……)のですが、2次元のキャラクターを3次元の生身で表象するって一種倒錯的な作業ですらある気がして、すごいことやってんなあといつも思います。
きっといろんな作品が不可能を可能にするための表現手法を模索しているところも2.5世界の魅力の一つなのでしょう。
彼女がエーステは今しかないから!!!って必死でチケット抑えてる理由が完全にわかった。今年もイープラスにお参りしようね。
その③につづく